勝率96.4%。10年間の利益プラス5,000万円。
こんな数字を載せたバックテスト報告書を前にすると、頭の中で2つの声が同居しませんか。「さすがに嘘でしょ」という声と、「でも本当だったら凄い」という声です。
私が監査したEAの1つに、まさにこの成績を掲げるものがありました。結論からお伝えすると、テストに使われた価格データそのものが壊れていました。販売ページの数字は、本人にとっては真実でも、本物の市場では再現できない成績だったのです。
この記事では、どこに違和感があって、どうやって破損を突き止めたのかを監査実録として記録します。
最初の違和感: 勝ちは「数字の綺麗さ」に隠れる
報告書を最初に見たとき、注目したのは勝率ではありません。数字同士のバランスです。
- 勝率96.4%なのに、利益ファクターと損切りの平均を比べると損失が不自然に小さい
- 10年の運用で最大ドローダウンがほぼゼロに近い
- 取引回数は多くないのに、利益額だけが際立って大きい
どれか1つなら「優秀なEA」の説明がつきます。しかし3つが同時に揃うと、話が違ってきます。数字の綺麗さは、しばしば「壊れた前提」の産物だからです。
検証の切り口: まずデータそのものを疑う
監査ではEAの中身より先に、テストに使われた価格データを取り直すところから始めます。理由はシンプルです。どんなに優れたロジックでも、入力される価格が壊れていれば出力は全て信用できません。
そこで同じ期間のM1データを別ソースから取得し、販売者のテスト条件をそのまま再現しました。
ここで勝率96.4%のはずのEAが、52〜53%に落ちたのです。
犯人は「終値のフリをした始値」だった
データを比較して分かったのは、驚くべきことに「Close」として記録された数列が、同じ足の「Open」とほぼ一致していたことでした。
つまり、EAが「前の足の終値でエントリーしたつもり」で計算していた価格は、実際にはその足の始値だったわけです。
このズレ、1回あたりでは数pips程度です。しかし仕組みは厄介です。
- EAはバー確定時にClose価格でエントリー判定する設計だった
- データのClose列が実は始値なので、判定と記録された約定価格が毎回系統的にズレる
- そのズレが数百回の取引で積み重なり、勝率を96%まで押し上げていた
未来の情報を見ているわけではありません。それだけに、一見「もっともらしく」見えるのが質の悪いところです。
再検証の結果を比べる
| 項目 | 販売者の報告 | 本物のデータで再現 |
|---|---|---|
| 勝率 | 96.4% | 52〜53% |
| データのClose列 | (壊れたまま) | Open列とほぼ一致していた |
| スプレッド込みの期待値 | 大きくプラス | ほぼゼロ〜マイナス圏 |
勝率が半分になるだけでなく、取引コストを正直に計上すると期待値が消える。これが「数字は真実でも、前提が嘘」のパターンです。
なぜ壊れたデータでテストしてしまうのか
ここで販売者を一概に詐欺師と決めつけるのは早すぎます。実務的には、次のような経路で壊れたデータが流入します。
- 海外の格安・無料のヒストリカルデータ配布元の品質問題(足の欠落、列のズレ)
- CSVを自分で加工する際の列入力ミスやタイムゾーンのずれ
- bidとaskが混在したデータでの約定シミュレーション
悪意がなくても、データが壊れていれば結果は同じです。購入する側に「数字の真偽を確認する手段」がないことが、本当の問題です。
自分でできる3つのチェック
監査を依頼するまでもなく、次の3つは誰でも確認できます。
- CloseとOpenの一致検査 — 保守的なデータでは各足のCloseとOpenが長期間にわたり高頻度で一致することはありません。不自然に一致が多いデータは要警戒です。
- スプレッドの実測比較 — テスト条件のスプレッド設定が、自分の口座の実測値(特に東京時間帯)と同じかを確認します。設定が甘いと成績は実際より良く見えます。
- t値による統計検証 — 利益が「偶然」でないことを数字で示すのがt値です。詳しくは「EAのバックテストはこう読む — 信頼できるか見抜く3つの数字」で解説しています。
この3つを通過して初めて、報告書の数字を「検討材料」として扱う価値が生まれます。別の監査実録「勝率7割でも資産は減る」の記録も、あわせて読むと判断の精度が上がります。
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おわりに: その数字、どこのデータで作りましたか?
EA選びで最も怖いのは、正直な人が壊れたデータを信じ込んでいるケースです。販売者も購入者も悪意がないのに、数字だけが嘘をつく。
あなたが今運用中、あるいは購入を検討中のEAの成績は、どんなデータソースで作られていますか?その問いにすぐ答えられないなら、まずデータの確認から始める価値があります。
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